一般外科医の知識置き場

外科系・疫学系論文を読んだり諸々

手術侵襲と生体反応

【論文】

術後臓器不全におけるメディエータ制御

島内 孝弘,外科と代謝(2021)

 

【SIRSとCARS】

SIRSの診断基準

①BT>38℃,BT<36℃ ②HR>90bpm ③RR>20bpm or PaCO2<32mmHg

WBC>12000 or WBC<4000もしくは未熟顆粒球>10%

CARS:Compensatory anti-inflammatory response syndorome

抗炎症性サイトカインの過剰産生による免疫抑制が優位となり,感染に対する生体防御機構が低下している状態.

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【術式とSIRS】

手術時間と出血量によるSIRSの発症の差はなく,手術部位による差が大きい

また,ドレーンのIL-6とSIRSの発生率には正の相関を認めた.

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【panperitonitisとサイトカイン】

・ARDS発症例ではIL-8,MIP-1α,エラスターゼなどが高値.

・また死亡例では3日後のIL-6及びIL-10が高値であり過免疫抑制状態であることが示唆された.

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【各種メディエータの関与】

①サイトカイン

術後の感染などのSecond attackが白血球を遊走させるサイトカインであるケモカインを過剰に発現させ,主要臓器を傷害する可能性がある.さらに接着分子を発現させることで血管内皮から血管外へ遊走しプロテアーゼや活性酸素を放出することで細胞障害を引き起こす.

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②好中球エラスターゼ(PMN-E)

顆粒球に含まれるプロテアーゼで最も強力な作用を有する.この拮抗薬がシベレスタットである.効果は諸説あるが日本ではARDSに有用との報告がある.

③high mobility group box 1(HMGB-1)

細胞外に遊離してきたHMGB1はAGE(advanced glycation endproducts) の受容体やTLR-2, -4を介してDAMPs (damage associated molecular patterns)として働き、炎症性サイトカイン(IL-1β, TNFαなど)を産生放出させて炎症を引き起こす.

高侵襲手術のみでPOD3をピークに発現していることが分かった.SIRSの期間と有意な相関アリ.

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・食道癌手術に対して術前のHMGB-1>3.0が独立した呼吸不全のリスクという報告あり(HR2.869 95%CI:1.252-6.574).

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④Neutrophil extracellular traps (NETs) 

活性化された好中球による最近の封じ込めというイメージ.これにより血栓形成と臓器障害が惹起される可能性.リコモジュリンが有用といわれる.

 

 

 

 

肝転移を有する大腸癌に対する治療と60日死亡率(CAIRO4 trial)

【論文】

Sixty-Day Mortality of Patients With Metastatic Colorectal Cancer Randomized to Systemic Treatment vs Primary Tumor Resection Followed by Systemic Treatment: The CAIRO4 Phase 3 Randomized Clinical Trial

Dave E W van der Kruijssenら,JAMA surg.(2021)

 

CAIRO4試験

2012年に開始された切除不能な遠隔転移を有する大腸癌患者(mCRC:metastasis colorectal cnacer)に対するsystemicな治療群と原発巣切除を先行したのちにsystemicな治療を行う群(praimary tumor resection:PTR群)を比較するランダマイズ試験.

原発巣による症状がない,もしくはあっても軽微なmCRCに対して原発巣の切除が必要であるかを明らかにするための試験.

化学療法の内容は5-FUベース+B-mab.

 

【要旨】

対象は196症例.

60日死亡率は3%,95%CI 1-9%(systemic)vs11%,95%CI 6-19%(PTR)でP値は0.03.

また,Lactate, AST,ALT,好中球が高い患者ではより死亡率が高かった.

次のPhaseではOSでの比較検討を行う予定.

 

 

 

感染性粉瘤に対するLip-shaped incision

【論文】

粉瘤の小切開摘出術としての口唇形切開法の試み 

日本臨床皮膚科学会会誌(2019),新澤みどり

 

【要旨】

1)粉瘤の大きさを触診(あればUS)で,油性ペンでアウトラインを書く.
2)粉瘤の頂点付近に紡錘形切開をデザインする.長軸方向は皮膚割線または皮膚緊張線に従う.紡錘形の長径は1.5 ㎝までの粉瘤なら直径の60~70%,1.5~3㎝なら50%,3㎝を超えるものなら30~40%を目安にする.真皮の薄い部分では紡錘形を小さめに,厚い部分では大きめに設定する.紡錘形の長径:短径は3:2くらいの太目にすると処理がしやすい.へそは紡錘形のどこかに入っていればよく,中央である必要はない(図1).

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3)患部を消毒し,キシロカイン®で局所麻酔を十分に行う.嚢腫壁を穿通しないよう,ゆっくり全周性に注入する.紡錘形部分はツベルクリンテストの要領で表皮直下に膨疹を作るよう麻酔しておく.
4)尖刃メスで,紡錘形の浅い均一な切開を入れる(図1(a)線,図2a).切開の深さは真皮上層までとし,嚢腫壁に到達しないよう注意する.理想的な切開は紡錘形が均一にうっすら出血して見える程度である.

5)紡錘形の中央を,尖刃メスで真一文字に深く穿刺する(図1(b)線,図2b)

f:id:mega_muuma_ji:20220201150229p:plain6)穿刺部に小鑷子の先端を挿入し,もう一方の手で側方から圧迫をかけつつ,小鑷子の先端を回しながらかき出すと内容物が圧出されてくる(図2d).固すぎて少量しか出ない場合は無理をせず以下の操作に進む.

f:id:mega_muuma_ji:20220201150505p:plain7)上記の処置で形成された口唇形の部分を有拘小鑷子で保持し,紡錘形切開線から反剪刀を入れて,真皮を少しずつ剥離しながら嚢腫壁を探す.口唇形の部分は表皮と真皮,嚢腫壁の上端から構成されており引っ張りに耐えられる.灰白色の光沢ある嚢腫壁が確認できたら,反剪刀の先を押し広げるよう愛護的に周囲組織から剥離していく(図2e).嚢腫壁が途中で小さく破れても,内容物の漏出はほとんどないため操作を続行してよい.癒着や瘢痕化がなければ袋状構造が一塊に摘出できる(図2f).

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8)嚢腫壁が途中で大きく破れた場合でも,口唇形の部分を中心に半分以上が連続で摘出できればよい.紡錘形の穴からは内腔の状態が観察しやすくなっている.出し切れなかった角化物を取り除き,血管や癒着などに注意しつつ,下床に残った嚢腫壁の断片を鋭匙鑷子や反剪刀で丁寧に取り除く.

大腸がん術前の食物繊維摂取が合併症を予防する

【論文】

Association of habitual preoparative Dietary Fiber Inatake With complications after

coloerctal Cancer Surgery

Dieuwertje E Kok, JAMA Surg.(2021)

 

【要旨】

研究方法:コホート研究

対象:11施設,2010-2017年の待機的大腸癌手術を受けた患者1399人

評価項目:縫合不全および外科的合併症,その他全般の合併症

     →ロジスティック回帰による分析(性,部位,食物で層別分析)

結果:

合併症の発症は397症例(28%),外科的なものは235例(17%),縫合不全は67例(5%).

1日当たり10g以上の食物繊維摂取群では有意に合併症が少なかった.

→OR…0.75 95%CI…0.62-0.92

縫合不全に関しては有意差は見られず(95%CI 0.66-1.43)

特に野菜から食物繊維を摂取している患者ではあらゆる合併症が低い傾向にあった.

乳び胸に対するエチレフリン治療

【乳び胸の基本】

・発生頻度は0.6~3.8%と報告.

・基本治療

①ドレナージ ②低脂肪食/中鎖脂肪酸投与 ③絶食/TPN管理

+④オクトレオチド ⑤リピオドールリンパ管造影 

 ⑥OK-432/ミノマイシンによる胸膜癒着療法

・手術療法:胸管結紮…1.2割で奏功しない例がある.

 

【エチレフリン】

交感神経刺激による胸管平滑筋収縮による乳糜減少の効果あり

血圧上昇や頻脈/頭痛や胃管血流低下を懸念する必要あり

 

食道癌手術後の乳び胸に関する検討②

【論文】

Risk Factors for Postoperative Chylothorax After Radical Subtotal Esophagectomy

Yu Ohkuraら,Ann Surg Oncol.(2018)

 

【要旨】

食道癌に対する食道切除を施行した294例を対象とした.手術はSiwert 1を含めた2領域以上の郭清を伴う食道亜全摘術が行われた.24例で乳び胸を認めた.

共変量解析で有意差を認めたものは,胸管切除/CRT歴あり/術中輸液過多であった.

多変量解析ではpost-chemoradiotherapy [HR = 3.430; 95%CI 1.364-8.625] and high intraoperative fluid balance (HR = 1.569; 95% CI 1.27-2.039)が独立した因子.

輸液量のCut Off値は6.55ml/kg/h.

Abdominal Compartment Syndrome

【論文】

①一般外科医が行うOpen abdominal managementの現状

小綱ら,腹部救急(2013)

②Intra-abdominal hypertension and the abdominal compartment syndrome:
updated consensus definitions and clinical practice guidelines from the World Society of the Abdominal Compartment Syndrome

Andrew W. Kirkpatrick ,Intensive Care Med (2013)

 

【要旨】

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ACSアルゴリズム

 

ACS:Abdominal Compartment Syndrome

→種種の腹水増加や消化管拡張などにより,腹腔内圧の上昇による多臓器障害を来す病態.臓器還流の低下,IVC圧迫による心拍出量低下,横隔膜挙上による換気不全,頭蓋内圧上昇などによる多臓器不全を経て致命的な転帰をとる.

【腹腔内圧(IAP)の測定方法】

膀胱内圧で代替する.

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尿道カテに直接,静脈針または三方活栓を付けて,チューブとケーブル付きの圧トランスデューサーを中腋窩線恥骨部に設置.

②チューブの遠位端に生食,ケーブルにモニターを接続しゼロ補正する.

③最後に膀胱内へNS25mlを注入し,カテをクランプし,内圧が平衡状態での呼気終末時の値を測定.

【内科的治療】

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【Open Abdominal management】

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