一般外科医の知識置き場

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感染性粉瘤に対するLip-shaped incision

【論文】

粉瘤の小切開摘出術としての口唇形切開法の試み 

日本臨床皮膚科学会会誌(2019),新澤みどり

 

【要旨】

1)粉瘤の大きさを触診(あればUS)で,油性ペンでアウトラインを書く.
2)粉瘤の頂点付近に紡錘形切開をデザインする.長軸方向は皮膚割線または皮膚緊張線に従う.紡錘形の長径は1.5 ㎝までの粉瘤なら直径の60~70%,1.5~3㎝なら50%,3㎝を超えるものなら30~40%を目安にする.真皮の薄い部分では紡錘形を小さめに,厚い部分では大きめに設定する.紡錘形の長径:短径は3:2くらいの太目にすると処理がしやすい.へそは紡錘形のどこかに入っていればよく,中央である必要はない(図1).

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3)患部を消毒し,キシロカイン®で局所麻酔を十分に行う.嚢腫壁を穿通しないよう,ゆっくり全周性に注入する.紡錘形部分はツベルクリンテストの要領で表皮直下に膨疹を作るよう麻酔しておく.
4)尖刃メスで,紡錘形の浅い均一な切開を入れる(図1(a)線,図2a).切開の深さは真皮上層までとし,嚢腫壁に到達しないよう注意する.理想的な切開は紡錘形が均一にうっすら出血して見える程度である.

5)紡錘形の中央を,尖刃メスで真一文字に深く穿刺する(図1(b)線,図2b)

f:id:mega_muuma_ji:20220201150229p:plain6)穿刺部に小鑷子の先端を挿入し,もう一方の手で側方から圧迫をかけつつ,小鑷子の先端を回しながらかき出すと内容物が圧出されてくる(図2d).固すぎて少量しか出ない場合は無理をせず以下の操作に進む.

f:id:mega_muuma_ji:20220201150505p:plain7)上記の処置で形成された口唇形の部分を有拘小鑷子で保持し,紡錘形切開線から反剪刀を入れて,真皮を少しずつ剥離しながら嚢腫壁を探す.口唇形の部分は表皮と真皮,嚢腫壁の上端から構成されており引っ張りに耐えられる.灰白色の光沢ある嚢腫壁が確認できたら,反剪刀の先を押し広げるよう愛護的に周囲組織から剥離していく(図2e).嚢腫壁が途中で小さく破れても,内容物の漏出はほとんどないため操作を続行してよい.癒着や瘢痕化がなければ袋状構造が一塊に摘出できる(図2f).

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8)嚢腫壁が途中で大きく破れた場合でも,口唇形の部分を中心に半分以上が連続で摘出できればよい.紡錘形の穴からは内腔の状態が観察しやすくなっている.出し切れなかった角化物を取り除き,血管や癒着などに注意しつつ,下床に残った嚢腫壁の断片を鋭匙鑷子や反剪刀で丁寧に取り除く.