飲酒頻度が多いほど消化器癌になりやすい
【論文】
Association of the Frequency and Quantity of Alcohol Consumption With Gastrointestinal Cancer
Jung Eun Yoo et al. JAMA oncology(2021)
【PECO】
P:韓国のNHISに加入している癌既往のない40歳以上の集団
E:飲酒量、頻度、一回量で分けられた群
C:現在飲酒していない群
O:消化器がんの発症(食道、胃、大腸、肝臓、膵臓、胆道)
【基本特性】
・Nondrinkers:59.7%
Mild:23.7%
Moderate:9.5%
Heavy:7.1%
・飲酒群で
男性が多く,喫煙者が多い.
また運動量が多い傾向にあった.
併存症が多い傾向あり(?)
【飲酒パターンと発癌】
üFollow-upの中央値は6.4年
ü飲酒量の増加に伴いGI癌発症リスクは増加.(A)
ü飲酒頻度の増加伴いGI癌発症リスクは増加.(B)
ü1回飲酒量に関しては5-7UnitsでPlateauとなった.(C)
üいずれの癌でも同様のパターンが見られた.
ü女性では男性ほど顕著(prominent)な相関は認めず.
ü週の飲酒量で分けたサブグループ解析
üMild群では3-4回/週が最も高リスク.Moderate,Heavyでは5-7回で最も高リスク.(A)
üいずれのグループも1回飲酒量が多いグループでリスクは最低.(B)
(→Binge drinkingに相当するものだと思われる.)
・各消化器癌で同様のパターン
【結論等】
・同程度の飲酒量であれば一回量より頻度が多いほど癌になりやすい可能性がある.
ü仮説
1.常用的なアルコール摂取により幹細胞分裂が促進される.結果として悪性転化の可能性がある.
2.アセトアルデヒドの慢性暴露がDNA修復に障害を与える可能性がある.またCYP2E1の誘導が促進され活性酸素が増加するることも要因かもしれない.
In vinoの実験で習慣的なアルコール摂取は腫瘍の発生に,急激なアルコール摂取は腫瘍の進行に関わるという報告がある
【疑問など】
・過去飲酒の評価がなされていない
・食事に関しても未知
ストマの作成法とOutletObstructionの予防
【論文】
A technique for constructing diverting loop ileostomy to prevent outlet obstruction after rectal resection and total colectomy: a retrospective single-center study
Yusuke .T et al. Sugery Today(2022)
【PECO】
P:Diverting loop ileostomyを併施された低位前方切除もしくは大腸全摘を受けた患者
E:ストマ口側が患者頭側となる群(Oral Superior:OS群)
C:ストマ口側が患者尾側となる群(Oral Inferior:OI群)
O:Outlet Obstruction(OO)の発生率
【Outlet Obstruction(OO)の定義】
(1) 腸閉塞症状
(2) 経ストマ的減圧で症状の改善を認める
(3)CTで腹直筋を貫く部位にCalibar changeを認め,その他の部位に狭窄を認めない
【Method】
・最終的にストマ閉鎖を施行された患者が対象.OI:54例 OS:79例
・腹直筋の厚さの評価
・ストマの位置評価
・手術因子の比較
・ストマ造設について,以前はOIで作成しており徐々にOSに移行した経緯あり,癒着防止剤の使用に大きく差がある
・Outcomeの評価:OOの発生率は14.8%vs1.3%
・腹壁の厚さなどに有意差なし
・多変量解析
共変量は記載ないが,Table内の変数のみか?
【Dissucution】
・OOのリスクとして筋膜の十字切開,腹腔鏡の使用の報告あり.
・そのほか,腹直筋の厚みやストマの角度も関連しているとの報告あり.(本研究では有意差なし)
・腹腔鏡の観察ではいずれの方法も腸間膜のねじれに差はないように見えた.
・OI群では肛門側の便貯留によってストマが折れ曲がる可能性を示唆.
胃癌術後の腹腔内感染症は生存率を悪化させる
【論文】
Poor Survival Rate in Patients with Postoperative Intra-Abdominal Infectious Complications Following Curative Gastrectomy for Gastric Cancer
M.Tokunaga et al. Ann Surg Oncol(2013)
【PECO】
P:胃癌の根治切除術を施行された患者
E:術後腹腔内感染症あり
C:術後腹腔内感染症なし
O:5年生存率
【Methods】
・R0を達成された胃癌患者が対象.
・感染(+)群が81人,(-)群が684人.
・術前前後に化学療法を施行している患者,腺癌以外の組織型、残胃癌は除外.
・術後合併症に関してはClavien-Dindo分類を使用.
・腹腔内感染→膵関連感染症,縫合不全,腹腔内膿瘍
【Results】
・(+)群で胃全摘が多い他,手術因子にかなり差がある.
・進行しているCaseが(+)群で多い.
(左が感染あり、右が感染なし)
・腹腔内感染症は11%に発生.
・そのうち33%がGrade2で保存的改善.その他は観血的介入あり.
・再発はそれぞれ26%(21/81) vs 12%(83/684)であった.P=.002
・再発形式に大きな差は認めず.
・追跡期間の中央値は63カ月
・5年生存率:(+):66.4% vs (-):86.8%
・Stageで分けた5-year OS. いずれも有意差あり.
・RFSでも同様の結果.
・COX比例ハザードモデル
→共変量:年齢,性別,組織型,術式,郭清度,出血量,手術時間,pStage
・HR 2.448 95%CI 1.475-4.060
【Discussion】
・炎症反応による免疫抑制が関連している可能性.
・D2郭清,脾摘などを伴う手術ではより正確/慎重に手術を行う必要がある.
メタボリックシンドロームとAlcohol Flushingの関係
【論文】
Relationships Among Alcohol Consumption, Facial Flushing Response,and Metabolic Syndrome in Healthy Men
JIN-GYU JUNG et al. Ann Epidermiol.(2012)
【PECO】
P:検診で来院した1823人の健常な韓国人男性
(薬物治療を受けているHT,DM,DLp患者は除外している)
E:Alcohol Flushingのある者
C:Alcohol Flushingのない者
O:メタボリックシンドローム(MS)の有無
【研究デザインなど】
・横断研究.
・14gのアルコールを1Drinkとした.
・ メタボリックシンドローム(MS)の定義
腹囲>90 ㎝に加えて HDL cholesterol <40 mg/dL ;もしくはTG > 150 mg/dLのいずれかを満たす.
・Flusherの診断
: (1) Do you flush in the face immediately after drinking a glass of beer:always,sometimes, or never?
(2)Did you flush in the face immediately after drinking a glass of beer: always, sometimes, or never?
→いずれかがYESならFlusherとする
【結果】
・患者背景
・単変量解析では各群でMSに有意差なし
・飲酒量によるサブグループ解析
・中等量の飲酒群で著明に差を認めた
・多変量解析
共変量:年齢,BMI,運動習慣,喫煙歴
・non-Flusher群では大量飲酒群でのみリスクありであるが、Flusher群では中東量以上でリスクあり
→FlusherはMSの閾値を下げる可能性がある
BMIが食道癌手術後の短期成績に及ぼす影響
【論文】
The effect of preoperative body mass index on short-term outcome after esophagectomy for cancer: A nationwide propensity score-matched analysis
Jan A.H. Gooszen et al. Surgery(2022)
【PECO】
P:食道切除術を施行された食道癌患者
E:低BMI(18.5未満),高BMI(25-30,30以上)患者
C:正常BMI(18.5-25)患者
O:手術成績と腫瘍学的結果
【結果】
・傾向スコアマッチング前後で解析
・手術成績(マッチング前)
術中開胸,乳び胸,30日以内の在院死亡率に有意差あり
・腫瘍学的結果は特記なし
・傾向スコアマッチング後:DMと病理組織については各群で差はあり
(sex, age, medical history, American Society of Anesthesiologists classification, preoperative tumor stage, neoadjuvant therapy, type of resection, type of anastomosis
and type of reconstruction.)
・術中開胸の有意差はなし.乳び胸,再建臓器壊死,30日以内の在院死亡で有意差あり.(多変量解析で後者二つは有意差なしとのこと、ただし共変量は不明)
【結論等】
・低BMI群が最も術後成績が悪かった。
・高BMI群では手術難度が上がり、Leakなどが増え成績が悪くなるという報告もあるが、本研究ではそういったことはなかった。同様の報告も多数あり。
・乳び胸に関しては脂肪組織の少ない低BMI患者は胸管の保護が高BMI群より弱いことで胸管へのダメージのが差につながっているのでは .
・低BMIは栄養失調の指標であり,術後回復等に影響があるかもしれない。
PTGBD留置後の腹腔鏡下胆嚢摘出術のDifficulty Score
【論文】
New Scoring System for Prediction of Surgical Difficulty During Laparoscopic Cholecystectomy After Percutaneous Transhepatic Gallbladder Drainage
Michinori Matsumoto et al. AGSurg(2022)
【要旨】
・bailout procedureもしくは開腹が必要となりそうな症例をスコアリングシステムとして予測する研究.
・PTGBD留置までの時間(3日)と最大胆嚢壁(10mm以上)が独立した予測因子として有効であった.()内はCut Off値.
・ハイスコアでは有意にBile Duct Injury(BDI)が多かった.
・レトロスペクティブにみて,スコアリングの感度/特異度は75.0%/98.1%であった.
【方法・対象】
・スコアリングの因子を決定するためのTraining cohort 70例
・スコアリングの有効性を確認するValidation cohort 65例
をそれぞれレトロに選定
【結果】
・術前16因子のうち,独立したbailoutの危険因子は
・ROC曲線よりCut Offを決定
症状からRTGBDまでの留置が3日,GBの壁が10mmがそれぞれCut off
((AUROC = 0.795, 95% CI:0.650–0.939, P = .001 / AUROC = 0.854, 95% CI: 0.694–1.000.
P < .0001)
・スコアリングを0~2点で設定.
・Validation cohortでの解析.左からスコアリング0,1,2
・スコア0,1ではBDIなし.Bailout(開腹移行か亜全摘)にも有意差あり.
スコアが1もしくは2の時のBailoutに対する精度
・感度…9/12=75%
・特異度…52/53=98.1%
→スコアが陽性であるときはBailoutが必要になる可能性が極めて高く,陰性だからといいてBailoutが必要でないとは言い切れない
【Limitation】
・調査期間内にTG13→18の変更があったためBailoutの件数がtrainig cohortで少ない.
・術者の技術の問題.
吃逆と化学療法
【論文】
Hiccups in Cancer Patients Receiving Chemotherapy:A Cross-sectional Study
Mevlude Ergen MSc et al. J Pain Symptom Manage(2021)
【要旨】
セルフレポートアンケートを用いた横断研究.
対象は18歳以上の化学療法(少なくとも1コースは完遂)を受けた癌患者160人.
吃逆は37/160(23%)で認められた.そのうち65.9%が男性であり,消化器系悪性腫瘍が54.1%を占めた.
吃逆の持続時間としては83.8%が48時間以内で治まっていた.
10.8%の人が薬物治療を受け,27%の人が非薬物治療を受けた.
【患者背景】
・吃逆(+)群でFOLFIRINOXが40.6%.
【吃逆に関して】
・吃逆のSeverityは3.81±2.25(10段階)
・無治療が73.0%.
・薬物治療はメトクロプラミド2人,クロルプロマジンが1人,2剤併用が2人.
【感想】
・症例数が少なく統計的な部分は触れられていないが,ケモ中の吃逆は臨床上しばしば経験するので面白い内容だった.
・少ない経験だがCDDPは比較的よく吃逆が出ていた気がするので,Nが増えてレジメンごとに差が見てみたい.
・経験上、どちらかといえば肥満の人の方が吃逆が多い傾向にあったので体格についても検討してほしかった.
【補足:薬剤誘発性吃逆の機序に関して】
吃逆中枢は延髄疑核近傍網様体内にあり,GABAによる抑制を受けている.そのためGABA拮抗作用をもつ薬剤は吃逆誘発作用をもつと考えられる.ステロイドはGABA促進作用と拮抗作用という相反する作用をもつことが報告されているが,吃逆中枢ではGABA拮抗作用が強いと考えられる.キノロン系抗菌薬はGABA拮抗作用による痙攣誘発作用があり,抗腫瘍薬には痙攣誘発性のある薬剤があり,白質変性作用をもつことなどが示唆され,GABA作用と関係する可能性が考えられる.
(薬剤誘発性吃逆の3症例:原因薬剤と機序,近藤司 日救急医会誌(2019))