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特発性食道破裂に対する腹腔鏡手術

【論文】

巨大食道裂孔ヘルニアを伴う特発性食道破裂に対して腹腔鏡手術を施行し救命し得た1例

林ら,武田綜合病院医学雑誌 46;2020

 

【要旨】

食道裂孔ヘルニア嵌頓を伴う縦隔内限局型の特発性食道破裂と診断.
手術は腹腔鏡下に食道裂孔を開放し, 上部消化管内視鏡を併用して下部食道壁
に3cm程度の裂孔を確認した, 3-0 barbed suture全層一層縫合で穿孔部を閉鎖
た.後にNissen法による噴門形成を施行.

 

【考察】

・特発性食道破裂は成人男性に多く,好発部位は横隔膜直上の胸部下部食道左壁で80-90%を占める.下部食道の筋層は輪状筋の櫛状欠損があり脆弱性があること,下部食道左壁のみ周囲の支持組織を欠くことなどが原因と言われている.

 

・本症に標準術式は確立されておらず,症例や施設ごとに様々な術式が選択されている.外科的治療の要点は①穿孔部の縫合閉鎖②適切な洗浄・ドレナージ.一期的縫合閉鎖が可能な時間の目安は発症後24時間前後とされる.

 

・アプローチ法として経胸的アプローチと経腹的アプローチがある.経胸的アプローチでは胸腔内の洗浄・ドレナージを確実に行うこと可能.胸腔内穿破による汚染が高度な場合に望ましい.穿孔の好発部位が下部食道左側であるため,左開胸が選択されることが多い.下部食道の穿孔では,食道裂孔を切開して食道を尾側に牽引することで腹腔内からも良好な視野が得られるため,経腹アプローチも多く選択されており,縫合閉鎖後の大網・胃底部による被覆操作が行いやすい,胃痩や腸痩の同時造設が可能,分離肺換気が不要といった利点がある.